勝手に総括 - リコー編
2026年5月28日
◆ 初のプレーオフ進出――転換点となった今シーズン
リコーにとって、今シーズンはクラブ史における明確な転換点となった。レギュラーシーズンは9勝9敗。数字だけを切り取れば五分の成績に過ぎない。しかし、その内実は極めて濃密だった。長らく“善戦する中位勢力”という立場に甘んじてきたチームが、ついにリーグワンの勢力図を揺るがす存在へと変貌したのである。
クラブ史上初のプレーオフ進出。そして準々決勝でのサントリー戦敗退。その結果だけを並べれば、到達点は5位に過ぎない。だが、このシーズンにリコーが築いたものは、一過性の躍進ではない。チームの骨格そのものが変わり始めた一年だった。
◆ “脆さ”との決別――規律改善がもたらした変化
今季のリコーを語る上で、最も重要な変化は「規律」である。
過去数シーズンのリコーは、攻撃面で魅力を放ちながらも、試合運びの未熟さや不用意な反則によって自ら流れを手放す場面が少なくなかった。とりわけ接戦では感情が先行し、ペナルティを重ね、終盤に崩れる傾向が顕著だった。
しかし今季、その“脆さ”は明確に改善された。
象徴的だったのは、リーグNo.1の反則数の少なさである。だが、それは単なるスタッツ上の改善ではない。リコーは「勢い任せに前へ出るチーム」から、「我慢しながら圧力を掛け続けるチーム」へと変貌した。
ディフェンスラインの整備。ブレイクダウンでの役割分担。不要なジャッカルを減らし、オフサイドを抑制する判断共有。無理に勝負へ出るのではなく、“勝負すべき局面”を選べるようになったことが大きい。
タンバイ・マットソンHCがリーダーシップを育成するために導入したグループ制もチーム、クラブに付加価値を与えている。プレー面のリーダーズグループ、規律を管理するグループだけでなく、グラウンドや寮などのファシリティなどの環境を整備するグループ、地域密着やPRなどのビジネス連携グループ、チームビルディンググループがあり、選手は最低1つのグループに属しているという。
これまでのリコーには、“熱”はあった。しかし今季は、その熱に“制御”が加わったのである。
◆ TJ・ペレナラという「統治者」
その変化を最も体現した存在が、TJ・ペレナラだった。
彼の加入は単なる世界的名手の補強ではない。リコーが長年抱えていた「試合を支配する声の不在」を埋めるものだった。
ペレナラは、単にテンポ良く球を供給するSHではない。試合の温度を読み、危険な時間帯を察知し、必要ならゲームを止める。審判との対話、味方への修正要求、感情が昂った局面での沈静化――そのすべてを含めて、彼は“試合を統治する”選手だった。
特に印象的だったのは、劣勢時の振る舞いである。
従来のリコーは、連続失点から一気に崩壊する脆さを抱えていた。しかし今季は、ペレナラを中心に一度呼吸を整え、キックで陣地を戻し、フェーズ数を減らしながらゲームを再構築する場面が増えた。
それは戦術的変化であると同時に、精神構造そのものの変化でもあった。
◆ キャプテンシーが変えた“基準”
ペレナラの存在価値は、プレーだけに留まらない。
彼のキャプテンシーは、単なる激情型のリーダーシップではなかった。むしろ本質は、「要求する基準の高さ」にあった。
サポートの角度。戻りの速度。コミュニケーション。プレー判断の速さ。細部に対する要求は極めて厳格だった。そして重要なのは、その要求を最も高いレベルで実践していたのが、他ならぬ本人だったという点である。
だからこそ、チームは彼に従った。
リコーは今季、「頑張る集団」から、「基準を持つ集団」へと変わったのである。
◆ 組織化されたアタックとディフェンス
もっとも、リコーの躍進をペレナラ一人の功績に還元するのは正確ではない。
今季のリコーは、チーム全体の役割整理が極めて明確だった。FWDはFLリアム・ギルや松橋周平を中心に、無理に接点で勝負し続けるのではなく、フェーズ維持を優先した。
そして今季のリコーで一番成長した感のあるSO中楠一期によってテンポとキックの使い分けが整理され、BACKSも単純な横展開一辺倒から脱却した。外へ振るだけでなく、内側のスペースを突く。接点を作るだけでなく、次の局面を設計する。アタックは“単発の閃き”から、“連続性を持つ構造”へと進化していた。FBアイザック・ルーカスの輝きは言うまでもなく、今季の両WTBメイン平と西川大輔の活躍も印象的だ。
守備面でも成長は顕著だった。
これまでのリコーは、一度防御が乱れると失点が連鎖する傾向が強かった。しかし今季は、ゴール前での粘り強さが増した。タックルした選手、その次に入る選手、ポスト周辺を埋める選手――それぞれの役割理解が深まり、守備が個人技ではなく“構造”として機能し始めたのである。
◆ セットプレーに見えた“静かな成長”
今季の躍進を支えたもう一つの重要な要素が、セットプレーの安定感向上だった。
スクラムは過去のように試合を壊す弱点ではなくなった。FWDコーチのカール・ホフトやプレーイングコーチのパディ・ライアンの指導の下、組み合い直後の姿勢維持や8人の連動性が改善され、リーグ屈指のスクラム成功率を誇るまでに成長した。苦しい局面でも耐え切れる時間が増えたことは大きい。西和磨・谷口祐一郎/大西将史/笹川大五らのフロントローの表情も自信に満ち溢れていた。
ラインアウトも安定感を増した。コールや役割分担が整理され、無理に複雑なムーブを狙うより、成功率を重視した構成へ変化。さらに、一度読まれても修正しながら立て直せる柔軟性が加わった。
モールに関しても、“圧倒する武器”には至っていないものの、接続速度や隊列形成が改善され、以前のように簡単に崩壊する場面は減少した。特にゴール前では、焦って押し切ろうとするのではなく、段階的に圧力を掛け続ける冷静さが見られた。
総じて今季のリコーは、セットプレーを「気合い」ではなく「構造」として扱えるようになっていたのである。
◆ 準々決勝敗退が示した現在地
プレーオフ進出は、リコーの成長を証明したが、準々決勝では試合開始直後、選手たちに緊張感が見て取れた。それがプレッシャー下での判断速度、キックチェイスの圧力、セットピース後の連携精度などに影響し、前半のサントリーのリードを許したのかもしれない。
そして前半終了間際や試合ラストの終わらせ方に不安定や迷いを感じた。リコーに足りなかったのは「プレーオフでの戦い方の経験値」なのだろう。
つまり現在のリコーは、「上位へ挑むチーム」には到達した。しかし、「タイトルを奪い切るチーム」には、まだ至っていないのである。
◆ 来季への展望――問われる“継続”と“破壊力”
来季、リコーに求められるものは明確だ。
まず重要なのは、“成功体験”との向き合い方である。今季、彼らはリーグ内での評価を大きく変えた。しかし次季は、もはや挑戦者として軽視される側ではない。研究され、対策され、強度の高い試合を要求される立場となる。
その中で、今季築いた規律と遂行力を維持できるか。
さらに必要なのは、「試合を壊せる攻撃力」である。
今季のリコーは、接戦を勝ち切る力を身につけた。しかし優勝争いを制するには、均衡状態を一気に破壊する爆発力が必要となる。流れを変える個。連続フェーズで一気に押し切る強度。その領域へ踏み込めるかが、次なるテーマになるだろう。
そしてもう一つ、避けて通れないのが“ペレナラ依存”の問題である。
今季のリコーにおいて、彼の存在はあまりにも大きかった。だが、本当に強い組織とは、その基準が個人ではなく文化として定着したチームを指す。
ペレナラは来季が契約ラストシーズン。ペレナラはチームの未来を考え、あるいは自身の体力回復度合いにより、出場機会をセーブすることも考えられる。そのペレナラ不在時にも同じ規律を維持できるのか。同じ判断基準でゲームを進められるのか。そこに、次なる進化の鍵がある。
◆ “勝つ文化”の入口へ
今季のリコーは、間違いなくリーグワンにおける“物語”の一つだった。
かつての彼らには、「魅力はあるが届かない」という空気が漂っていた。しかし今季、その輪郭は変わった。
泥臭く耐え、感情を制御し、80分を設計しながら戦う――個人もチームも”経験値”というかけがえのないものを手にしながら、リコーはようやく、“勝つ文化”の入口へ辿り着いたのである。
来季のリコーのさらなる躍進に、期待しかない。
