TMOに思うこと


2026年5月25日

たまに、現場のレフリーが一度「問題ない」と流したプレーに対し、後からTMOが介入したにもかかわらず、結局「問題なし」として判定が変わらない場面を見ることがあります。昨日のリーグワン準々決勝:クボタvs東芝戦でもありました。

この現象は、観客や視聴者からすると「何のための時間だったのか」「試合の流れを止めるな」と最もストレスを感じるポイントの一つです。

リーグワンにおいてこのケースがよく発生する背景には、ラグビー界全体の「テクノロジー導入のジレンマ」と、「日本のマッチオフィシャル(審判団)のチーム運用方針」に起因する4つの構造的な理由が考えられると思います。



1. 「トライに繋がるプレー」への厳格すぎる遡り

現在のワールドラグビー(国際統括団体)の TMOプロトコル では、TMOが自発的に介入できるケースの一つとして「トライ(または得点)に繋がるフェーズで、見落とされた明白な反則があった場合」が認められています。

現場のレフリーが「流した」スローフォワードや小さなノックオンでも、その後にトライが生まれると、TMOは「遡って確認する義務」が生じます。映像をスローや別アングルで確認した結果、「スローフォワードではなかった」など、現場のレフリーの目視が結果的に正しかったと証明されるだけに終わるため、ファンには無駄な中断に見えてしまいます。



2. 「Clear and Obvious(明白かつ確実)」の解釈のズレ

世界的なTMOの原則は、「レフリーの誤審がClear and Obvious(誰の目にも明白)な時だけ介入する」というものです。しかし、リーグワンの現場ではこの基準の解釈がやや過剰になる傾向があると思います。

TMO担当者が「レフリーの死角で、何か怪しい動き(反則っぽいもの)が見えた」と感じた際、本来なら「確証が持てないからスルーする」べきところを、念のためにレフリーへ「確認しますか?」と声をかけてると想像します。

いざ試合を止めて大画面で確認すると、やはり反則とまでは言えないグレーなプレーであり、レフリーも「問題ない、私の見立て通りだ」と判断するため、元のプレー続行(またはトライ成立)のまま再開されます。



3. 日本特有の「合議制(チーム・レフェリング)」の意識

日本のラグビー界は、主審、副審(アシスタントレフリー)、TMOの4人が「4人で一つのチームとして、徹底的にミスをゼロにする」という意識(チーム・レフェリング)が非常に強い文化を持っているように見えます。

南半球のスーパーラグビーなどでは、『主審の権限が絶対的』であり、TMOが声をかけても主審が「私は見ている、問題ない!」と一蹴して試合を流すシーンがよくあります。

リーグワンでは、TMOから「確認してほしい」と言われると、主審は相手の意見を尊重し、真摯に耳を傾けて確認作業に応じてしまいます。この「真面目さ」「丁寧さ」が、結果的に「確認したけれど何もなかった」という空振りの時間を増やしていると感じます。



4. 放送技術(カメラの多さ)による「見えすぎ」の罠

リーグワン(特にディビジョン1)の試合は、高画質なTV中継カメラが何台も配置されており、現場のレフリーが見ていた角度とは全く違う「真上」や「逆サイド」からの映像がTMOの手元に届きます。レフリーの肉眼では完璧に「ノーファウル」に見えたコンタクトでも、別アングルのスロー映像で見ると「一瞬、肩が相手の頭に触れたように見える」といったシーンが生まれます。

危険なプレー(ヘッドコンタクトなど)の見落としは審判団の重大な責任問題になるため、TMOは「最悪の事態(レッドカード級のファウル)を避けるための予防策」として試合を止めざるを得なくなっています。



5. お願い

この現象は、「誤審を防いで公平な試合にしたい」という審判団の正義感が、結果的に「試合のテンポやエンターテインメント性を損なう」という弊害を生んでいる典型例です。

ラグビー界でもこの問題は世界中で批判の対象となっており、先述のスーパーラグビーなどでは「TMOの介入権限をさらに狭める」方向で 試験的なルール改正 が毎年行われています。

日本ラグビー界にTMOが導入されたのが2014年。あれから相当の月日が流れているにもかかわらず、毎年(毎試合?)のようにTMOのことが話題に上っているのはいかがなものでしょうか?進化してるとは到底思えません。

もういい加減、上記の構造的原因の改善含め、

「TMOが自発的にレフリーに介入できるのは、重大な反則行為を見逃した場合 (イエローカード相当以上の行為)とトライに繋がる明白な反則を見落とした場合に限られる。その他の場合でTMOが発動されるのは、レフリーが求めた時のみとされる。」

を徹底し、よりスピーディーな試合展開のために

「現場のレフリーの判断をどこまで尊重するかの基準」

を本格的に見直した方が良いのではないでしょうか?

リーグワン関係者に届きますように。



蛇足:

いまだに海外のTMOとリーグワンのTMOの「技術的な違い」も感じます。フランスのTOP14などは、レフリーが確認したい、一番適切な角度の映像を一発で示してくれます。日本の場合は、何度も何度も「それじゃ確認できない映像」を流すシーンをよく見かけます。「横に J SPORTS のディレクターさんやスイッチャーさんを座らせとけよ!」と思う時もあります。